杉浦義正講師と木下佑一大学院1年生に、日本農芸化学会中四国支部大会について聞く

2013年9月27日 掲載


Q:杉浦先生は、食品科学科のインタビューでは初登場ですよね。まずは、先生の経歴からお聞かせ下さい。

杉浦A:私は愛知県出身で、学生時代、岐阜大学・農学部(現 応用生物科学部)で牛乳乳清タンパク質の研究をしていました。同じ大学の修士課程へ進学し、卒業後は地元の食品メーカーに就職しました。そのサラリーマン時代に、企業研究員として、三重大学と共同で海藻の成分研究を行い、水産分野に入りました。その研究でご縁あって、3年ほど前に水産大学校に赴任しました。

杉浦義正先生の近影

Q:水産大学校では、どんな研究をされているのですか?

杉浦A:企業研究員時代の研究テーマを継続しているのですが、主に海藻ポリフェノール(フロロタンニン)について研究しています。ポリフェノール(渋味物質)というと、陸上植物のポリフェノール(フラボノイドやイソフラボン、カテキン、タンニンなど)を想像するかもしれませんが、コンブの仲間で、アラメやカジメ、クロメといった食用の海藻(褐藻)にもたくさん含まれていることが知られています。
 アラメなどのマイナーな褐藻類は、コンブやワカメといった一般的な褐藻に比べるとフロロタンニンが多く、渋味が強い為、あまり普及していないと思われます。ですが、コンブやワカメと同じく食物繊維が豊富で、そのうえ、フロロタンニンが多いので、健康食品の素材として非常に有用で、なんとか普及できないものかと考えています。

Q:お話をお聞きしますと、まさに、水産そのものですね。ところが、今回、日本水産学会でなくて、日本農芸化学会中四国支部大会で研究発表されたと聞きました。水産大学校の先生と日本農芸化学会、うーん、両者の繋がりに、ちょっと違和感をおぼえるのですが…?

杉浦A:おっと、研究のお話で、肝心なことが抜けていました。フロロタンニンの研究といっても、フロロタンニンを含むアラメなどマイナーな褐藻の普及ではなく、フロロタンニンの食品機能性(主に抗アレルギー効果)が研究テーマです。学生時代から、ずっと食品分野にいますが、その中でも食品機能の研究を続けてきました。ですので、水産大学校に赴任してからも、動物(マウス、ラット)や培養細胞を使った生化学的・遺伝子工学的手法による、いわゆる生命科学研究を中心に進めています。
 このような食品機能のための生命科学研究は、日本農芸化学会の主要な分野であり、たまたま研究対象が陸上農産物ではなく褐藻(水産物)であるというだけで、私は全く違和感を感じませんね。

Q:水産と農芸化学の繋がりが良く判りました。では、今回発表された日本農芸化学会関西・中四国・西日本支部:日本ビタミン学会近畿・中国四国・九州沖縄地区2013年度合同広島大会について教えて下さい。

杉浦A:今回の学会は、県立広島大学の広島キャンパスで開催されました。キャンパスは広島駅からバスで20分ほどの広島市内にあり、会場の建物や図書館などの施設が綺麗で、とても落ち着いた場所でした。
 全体的には、学会の名前の通り、陸上農産物やビタミンに関する発表がメインでしたが、水産物を扱った発表も多くみられましたよ。私たちはフロロタンニンについて発表しましたが、その他に、タコ抽出物やカツオ削粉抽出物、コンブ抽出物、海藻多糖類(フコイダン)の食品機能性に関する発表もありました。
 今回は西日本地区の支部大会でしたが、全国大会(3月)では、水産物の食品機能性研究について、もっと多くの発表を聴くことができます。あっ、ことわっておきますが、“大会”といってもスポーツ競技ではなく、開催される学会のことを“OO大会”と呼びます。お間違えなく・・・


日本農芸化学会合同支部大会の会場となった県立広島大学の建物


会場の正面玄関前の立て看板


ユニークな建築物で有名な県立広島大学の図書館


建物の玄関にあった日本農芸化学会合同支部大会の受付の様子

Q:何でも、聞くところによりますと、先生ご自身がご発表されたのではなく、先生の下で研究を遂行している大学院生の木下佑一さんが講演発表されたとか。講演の演題とか、発表内容とか、その時の様子について教えて下さい。

杉浦A:木下君は4年生の卒業論文から、海藻成分の抗アレルギー・抗炎症効果について取り組んできましたが、今回、はじめて学外で発表しました。私は後ろのシート係(シートの差し替え役)の席から発表の様子を見ていましたが、木下君、落ち着いて発表していました。よくやってくれました。どこの大学でも同じですが、このように、水産大学校の大学院生も学外で学会発表します。
 演題は「海藻ポリフェノールのdieckolによるin vivoでの抗炎症効果」。Dieckolはフロロタンニン(海藻ポリフェノールの総称)の1つで、in vivoとは動物を使った実験のことを指します。つまり、「dieckolという海藻ポリフェノールが動物実験で炎症を抑える効果を示した」ということになります。
 発表した内容は・・・ マウスの耳にフロロタンニンを塗ると皮膚炎が抑えられたり、マウスにフロロタンニンを飲ませるとアレルギーに関係する体内の反応が抑えられた、というものです。
 マウスの皮膚炎を抑えた実験では、マウスの耳にarachidonic acidや12-O-tetradecanoylphorbol 13-acetate、oxazoloneを塗って炎症反応を引き起こし、そこにフロロタンニンを塗って炎症抑制を調べました。また、アレルギー反応に関係する酵素(ホスホリパーゼA2やシクロオキシゲナーゼ-2、リポキシゲナーゼ、ヒアルロニダーゼ)の反応をフロロタンニンは抑えることが分かりました。えーっと、それから、マウスにフロロタンニンを飲ませた実験では、免疫バランスに関係する血液中の免疫グロブリン(IgG1、IgG2a、IgE)の量や脾臓中の免疫因子(インターロイキン、インターフェロン、GATA、STAT、NF-κB、MAPK、PPAR、Lyn・Fyn)のmRNAレベルを調べたり・・・  えーっと、それから、それから・・・

木下A:先生、それくらいにしておきましょう(笑)。つまり、水産大学校でも、それくらい進んだ研究をしているんですよね。僕も、このような食品機能による生体調節機能の解明など生命科学分野に興味があって、この研究室に入りました。


木下佑一さんの講演発表風景

Q:聞いてて良く理解できたとは言えませんが・・・(笑)でも、水産大学校の院生の先輩が生理活性など生命科学に興味を持っていて、レベルの高い研究をしているのに驚きました。後輩の私も、研究の面白さを垣間見ることができました。杉浦先生と木下先輩! 本日は、インタビューを有難うございました。

杉浦A:いいえ、どういたしまして。最後に、冒頭の経歴でもお話しましたが、私はもともと農学部出身で水産分野には全く興味がありませんでした。でも、企業研究員時代に水産物の食品機能の研究をはじめたのをきっかけに、水産物の生理活性に非常に強く興味を持つようになりました。実際、農学部で扱われている陸上農産物に比べると、水産物ではまだ知られていない未知のことが多く、研究もとてもやり甲斐があります。もちろん、学校の名前の通り、研究で扱うのは水産物ですが、研究の進め方や方法など、農学部と変わりありません。

木下A:受験生の皆さん、「水産」という固定観念にとらわれず、農芸化学や生命科学に興味のある方は、是非とも、水産大学校を受験してみて下さい! きっと、満足されますよ。

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